星野源「ばかのうた」

ばかのうた

ばかのうた


 とぼとぼ、と。

 そんな形容が似つかわしいなあ、なんて思うアルバム。

 SAKEROCKのギタリスト星野源 初のソロアルバムは、後ろを振り返りながら胸を張らずとぼとぼ進むパーソナル・ポップ・アルバム。極私的な目線、ただそれが普遍的な物語として成り立つファンタジックな全15曲。

 SAKEROCKから地続きのサウンドメイクが醸し出す哀愁と、星野源のプライベートなノスタルジアを一手に背負ってとぼとぼ往く。夕焼けも朝日も思い出も連れてくる煌めくストーリーテリング

 ゆっくり振り返りながら往けば、見逃していたものや忘れていたものに出会えるかもね!Life Is Beautiful。そんなありふれた嘘、「ばかのうた」。騙され続けられるのなら、ばかの方がまし?

七尾旅人「billion voices」

ビリオン・ヴォイシズ

ビリオン・ヴォイシズ

 「歴史は夜作られる」という言葉が好きだ。

 Googleで検索してみたら、どうやら1930年代の映画のタイトルのよう。見た事ないし、もちろんどんな内容かも知らない。Amazonのキャプションを見ると、どうやらサスペンスみたいだ。「嫉妬深い夫に耐えかねたアイリーンは、パリでホテルの給仕長と恋におちる。これを知ったアイリーンの夫は殺人事件を仕組み、給仕長を犯人に仕立て上げる が…。」へーそうなんだ。って、映画は関係ないの。全然。なんだか言葉自体がロマンチックで惹かれるのだ「歴史は夜作られる」。


 七尾旅人「billion voices」は夜から始まる。

 明かりがなくなって、みんな一旦ひとりになって、「明日なんて来ないでほしいな」「でも死ぬのやだな」とか下らない有象無象が頭をまわっちゃう、あの夜からはじまる。

 下らないけど、決して放っておけない心のやり場が、誰かにしたためるメールになる、ブログになる、ツイートになる?セックスになる?「否、音楽になる。」そうして生まれた「I Wanna Be A Rock Star」が、まずはすべての孤独な夜に芽生えた情熱を祝福する。


 TwitterしてUstream見て「あぁ、くだらね。」また無駄に夜更かししちゃって「明日なんて来なければいいのに。」だけど気持ちが大きくなっちゃって「明日からは何か変えてやるんだ。」そんな宣戦布告が生まれた夜に、きっとあなただって「I Wanna Be A Rock Star」。新しい歴史が作られる、夜。

ASIAN KUNG-FU GENERATION「迷子犬と雨のビート」

迷子犬と雨のビート

迷子犬と雨のビート

 ゆで卵茹でて食べてるなうですが、同時に今6月にリリースされるニューアルバム「マジックディスク」の曲順を確認して興奮している所です。何がそんなに嬉しいって、当然のごとく「新世紀のラブソング」がオープニングチューンを飾ってて、これにひとり興奮。最高。

そうそうそう、そうなの。「新世紀のラブソング」から始まるアルバムを誰もが期待してた。例えばあの曲がトリを飾るようなアルバムなんてきっと誰も興味ないよ。ゴッチのセルフプロデュースは近頃いちいち正しい。しっかり自分のバンド俯瞰で見ているなって関心しちゃう。


 ゼロ年代の決別の曲。高らかにニュージェネレーションに手招きする大スローガンソング「新世紀のラブソング」をオープニングに据えて、その“新世紀”の“ラブソング”とやら(=アジカンのニューフェイズ)がアルバム全体に渡って高らかに鳴らされる、強固な決意と野心をもったアルバム!・・・に、仕上がってるんだろうな(もわわわーん)。と、想像膨らんでひとり興奮。



 「音楽に携わっている人たちがもっと共犯してストーリーを作らなきゃ。」「“みんな同じ人間”でしょって言ってる所から、もう一度“でもやっぱりあの人は違う”みたいな存在が出て来た時に状況は変わる。」「でかい会場でアンセムを鳴らしたい。」(MUSICA)近頃、発言もいちいち夢見てていいのさ。いいの。

で、極めつけに「Kid A以降の暗いメンタリティを終わらせるための祝福でムードを塗り替えればいいんだと思った」と・・・。
ゼロ年代のポストロックから派生した閉鎖的なメンタリティに終止符を打つためにどんな方法論が飛び出すやと思いきや、アルバムに先行して聞こえてきたのがまんまオアシス(=「迷子犬と雨のビート」)だったって所も愛嬌たっぷりで信頼できる。

「マジックディスク」期待大!

モーモールルギャバン「野口、久津川で爆死」

野口、久津川で爆死

野口、久津川で爆死

 超いまさらながらモーモールルギャバンのアルバムをしっかり聞きました。新しいのも出るという事で。
 もっとブっとんだ、アナーキーなバンドかなと思っていたのですが、曲はいたってポップで清潔。「西のクラムボン」の通称がなんとなく納得できる、3ピースのシンプルなポップネス。驚いた事にすごく“いい曲”とか結構ある!ピアノ・エモばりM2「POP!烏龍ハイ」の泣きっぷり、ゼロ年代J-POPの集大成M10「サイケな恋人」のメロウさ。 ・・・で、下ネタがアクセントになってクレイジーに仕上がってる? いや、曲の良さが勝ってる。この素敵なポップセンスを柱にやっていってほしいな。

ヨンシー「ゴー」

ゴー

ゴー

 Spring has come!!! 春が来た!!!
 シガー・ロスのボーカリストヨンシーのソロ作は、バンドの最新作「残響」の流れを踏襲したポップ・ライクな仕上がり。
 多幸感に溢れた能動的なビート、この世のものとは思えない神聖でエモーショナルなファルセット・ボイス。花びらの開花の映像を早送りでみているような、美しいスピード感!!!
 3月末なのに吹雪が舞ってた日本列島は、アイスランドからの春の便りをまっていた!一気に芽吹く春の予感。アルバム「ゴー」をBGMに。

bloodthirsty butchers「NO ALBUM 無題」

NO ALBUM 無題

NO ALBUM 無題

 ヘッドフォンの左耳側からひさ子さんのギターがキリキリと鳴りはじめ、右耳側で吉村さんのリフが絡む。スケールの感のあるバンドサウンドが爆発して、開口一番「イライラする!」というフレーズで幕を開けるM1「フランジングサン」ですでに痛快度∞。
 轟音に蹴散らされて小賢しい事が一気に払拭されていく。聞けば聞く程裸になっていく。
 論理的ではなくて本能的に感じられるのがエモの大前提だとすれば、これほどの模範解答はない!というのがこのアルバムを聞いた感想です。

 ・・・って言ってもブッチャーズのアルバムをじっくり聞くのは久しぶり。高校の頃「yamane」っていうアルバムの「nagisanite」って曲が好きでした。正直そんな位。ただ、またここへ来てブッチャーズのロックに心奪われてしまいました。正直虜です。最!!!高!!!です。

 ロックの批評としてロックやっているような賢いバンドが増えたように思います。勿論そんなクールなバンドの音楽を好きな自分もいますが、ただ、なんか物足りなさを感じている所に、このアルバムと神聖かまってちゃんは見事にハマりました。小細工なしの激情(エモ)。そして切なさ。胸ぐらをつかまれるような切迫感。最高です。